なぜ自分の住む場所の近くに植物を植えるのか
REASON
今まで建築と庭は、対となるように考えられていました。家があって庭がある、建築という四角い箱に庭という蓋のない箱がくっついているようなイメージです。それぞれは独立して存在していて、互いに干渉し合わず、時にその境界をできるだけ、とっぱらおうという傑物もいましたが、その努力は一般解とはなりませんでした。
しかし、今、幸か不幸か庭の立場が著しく弱くなったために「建築と庭」という概念を変更する必要性がでてきました。庭はもはや独立して存在するには弱弱しく、外構やエクステリア、植栽という言葉に分離解体されています。しかし、私はそれでいいと思っています。庭という言葉が解体されたことにより、今一度問いやすくなりました。「なぜ自分の住む場所の近くに植物を植えるのか」と、その答えを見つけるには、人の進化してきた環境にまで遡る必要があります。
人類としては、600万年に私たちはこの地球上で1種の動物として進化してきました。ホモサピエンスとしては20万年で、人は道具を使い、環境を改変する力を身に着けたおかげで、いろいろな環境に適応することができるようになりました。しかし、遺伝子レベルでの環境への適応は、まだまだ進んでいないと思われます。なぜなら、ヒトが快適に思う環境というものは、たとえ70億人の全人類を調査したとしても、非常に狭い範囲に収まる可能性があるからです。砂漠に暮らす人も、南極に暮らす人も、結局「ハワイが最高」と思うのではないでしょうか。年中24~25度で湿度が少ない環境がおそらく人の進化上適応した環境であると思います。
そして、こういう話では忘れてはいけないのは、ハワイには自然、美しい海と豊かな森が存在します。たとえ、年中24~25度で湿度が少ない環境でも、海も森も火山もなければ、人はハワイに行かないでしょう。そう、ヒトは年中24~25度で湿度が少ない環境で、海と森に囲まれた場所で進化してきました。つまり、遺伝子的、本能的にそういった場所に行きたい、もしくは作り出したいという欲求があるのです。それは現在、科学的にも証明されつつあり、知ってか知らずか、ヒトの住まいを作るプロ達も口を揃えて、住まいには自然が必要であると言っています。
本当に安らぐ居心地の良い住まいを作るにはどうしたらいいでしょうか
私たちは、建物の性能や間取りにばかり気を取られてしまいがちです。それも大事ですが、重要なのは、人が豊かに生きる場所としての住まい、という視点を持つことにあります。本当に安らぐ住まいというものは、外の自然と中の暮らしが一体となった時にできるのです。たとえば、軽井沢に別荘を建てる時、一番に考えるのは、家の性能でしょうか。どんな敷地かということ、どんな景色が見えるかということに重きを置くのではないかと思います。
技術が進歩しても、人の根本的な心や体の仕組みは変わっていません。自然に触れたいという欲求は、本能に刷り込まれているので、私たちは、自然に触れることで、本当に安らぐことができるのです。昔と違い、緑を植える技術が上がり、多様な種類のものを植えれるようになり、大きな木も運べるようになりましたので、あなたが望めば都市の中で自然と暮らす生活は実現できます。小さな敷地でも、窓いっぱいに木を植え、森のような景色を作ることができます。そうすることにより、あなたの家を本当に安らぐ住まいにすることができるのです。